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ビースターズ漫画感想/「動物だって学校に通うし勉強するし恋愛もする」の極致がここにあった

今世の中で一番アツイ人外・亜人・獣人マンガといったら、板垣巴留さんが描く「BEASTERS(ビースターズ)」と言えるでしょうか。

2018年マンガ大賞に受賞をはじめ、第21回文化庁メディア芸術祭賞 マンガ部門【新人賞】、第22回手塚治虫文化賞【新生賞】など、数々の受賞歴を持つ本作、僕の中でもアツイマンガの一つです。

あらすじ

全寮制、中高一貫のエリート学校「チェリートン学園」。ある日この学園内で、草食獣アルパカの生徒テムが肉食獣に殺されるという「食殺事件」が起きた。警察の見解では学内の肉食獣が怪しいとのことで、生徒である肉食獣と草食獣の間には不穏な空気が流れる。それはテムが所属していた演劇部内においても例外ではなかった。

演劇部に所属するハイイロオオカミの少年レゴシは、大型の肉食獣であることに加えて寡黙な性格や意味深な言動が災いし、テム殺しの犯人だと疑いの目を向けられてしまう。幸いこの疑惑はすぐに晴れることとなるが、結局真犯人は見つからないままであり、学園内に生まれた肉食獣と草食獣の確執のようなものが消えることはなかった。

新入生歓迎公演「アドラー」に出演予定だったテムが亡くなったことにより、演劇部は代役を立てることを迫られる。そのやりとりのなかで、レゴシは演劇部の役者長・アカシカのルイに目を付けられ、夜間練習の見張りを命じられる。その最中、草食獣の気配を感じたレゴシは自身が持つ本能に従ってその草食獣を襲ってしまうが、ルイたちにトラブルが起きたこともあり、すんでのところで食殺は起こさずに済む。

その一件からしばらく、部の雑務で花を受け取りに園芸部を訪れたレゴシは、そこで小さなウサギの少女ハルと出会う。彼女こそ、あの夜レゴシが襲った草食獣だった。(wiki

SF要素を除いた動物たちだけが人間そのままに生活を営む世界

人外、亜人、獣人。

本来会話能力のない動物たちがしゃべり、人間に近い知能を持っていると、いろいろな呼び名が出てきます。どちらかといえば、本来人が(主人公たち人間が)持たず、一般常識からは理解できないようなSF的な能力を持つと、こういう呼び方をされる傾向にあるでしょうか。

ビースターズもまたカテゴリー的には、人外・亜人・獣人マンガと一応カテゴライズできます。レゴシやルイやハルなどをはじめとするビースターズの登場人物たちは、学園生活を営みつつ、しゃべることはもちろん、人間と同じく勉強し、悩みもすれば恋愛も経験していくわけですから。

ですが、ビースターズの世界は動物たち「だけ」が生活を営んでいる世界です。人間はいません。人間の存在を示唆されてもいません。(たしか)

▲ ピーターラビット(ビアトリクス・ポター1866 – 1943)

ピーターラビットのように、あくまでもリアルな動物的な世界を軸に描いているのでもなければ、ディズニーのキャラクターたちなどのようにコミカルに動いて僕らを楽しませてはくれるものの、社会的な生き物であることを省かれたマスコット的な存在でもありません。ましてや、超常能力といったものもビースターズの動物たちは持っていません。

彼らは人間と同じように、朝は眠そうに起きて登校して、勉強して、部活に精を出し、ときには異性に胸がキュンとすることもありつつも、夜になれば眠ります。「明日の学食はなんだったかな?」「明日は学園祭の準備が始まるから早く寝なきゃ」そんないたって学生らしいことを考えながら。

学食で出されるたまごサンドはレゴシが大好きな一品の一つですが、その卵は同じく学園に通うニワトリの女子生徒が(アルバイトで)生んだもの。そんなニワトリと並んで席につき、レゴシが漏らすたまごサンドへの絶賛に、女子生徒が心の中でガッツポーズをしているお話は、個人的にお気に入りで印象深い話の一つです。

草食動物と肉食動物と、弱者と強者

BEASTERS特設サイト(秋田書店)

もし、動物たちが人間と同じように学校生活を営んだらどうなるだろう? 一度は考えたことがある内容かかと思いますが、そこで問題になるのが、草食動物と肉食動物の区分けです。

本来動物たちは弱肉強食の世界に生きていて、もし目の前に肉食動物があらわれた場合、抗う力を持たない草食動物たちは必至で逃げなければなりません。ビースターズはその肉食動物と草食動物の関係性を省くことなく描いています。

確かに草食動物は肉食動物から襲われたら手も足も出ない。だけどもし肉食動物が草食動物を襲い、食べてしまうとなれば、逮捕されるという法律があります。

面白いのが、ビースターズでは、それでも肉食動物の性に逆らえ切れない肉食動物のために「闇市」なるものがあって、そこでは指や自身の腕などを売っている草食動物がいることを描いていることです。ビースターズの世界の動物たちには生活があって、大人になったらスーツを着たりしてお金を稼がなければいけませんから、こういった商売も成り立っています。

▲ 本物のハイイロオオカミ(タイリクオオカミ)

ぼんやり系内気主人公であるレゴシは肉食動物のなかでもとくに強者の部類に入るハイイロオオカミです。ですが、肉食動物、つまり強者であることでいいことがあったかというととくになく、むしろ幼少時から避けられてしまっていたくらい。

僕らの人間社会でも、身長の大きさ、握力や力の差、または知能の差などから差別意識が発生し、陰湿ないじめが勃発する可能性も存在していますが、それと似たような縮図で、肉食動物と草食動物の関係性を描いていること。

この設定、掘り下げ方が動物群像マンガとして斬新な要素の一つだと思いますし、そうかといって、ハルを助けにライオンで構成されたヤクザ一党に立ち向かうアクション展開があることも、ビースターズが青春群像マンガとしても広く受け入れられている理由だとも思います。