転スラ

転スラ/ユウキカグラザカが黒幕でラスボスだって初見では予想してなかった むしろ主人公っぽい

転スラを読み進めるなかで、面白いと思う要素は人それぞれだとは思いますが、筆者は転生者がバンバン出てくるところに興味を惹かれていました。

異世界転送譚は基本的に“同郷者”はいませんからね。(スライムであることは当時は結構斬新だったかもしれませんが、魔物で溢れている異世界界隈の今はそうでもないです)

「すごい…!絵葉書で見たニューヨークの摩天楼のよう」
「戦争が終わって平和になったよ。街も経済も発展した」

転スラでは早いうちから、シズという同郷者を出してきました。戦時中に生きて、戦火により死に、そんなシズにリムルはその後日本はしっかり復興していることを伝えました。

オーガたちの服装や日本刀をはじめとして、和風建築(明治時代のような街並み)、和室、温泉、マンガ、そしてお偉いさんたちから大評判の和食と、転スラはなかなか日本愛にあふれている作品とみることもできますが、

でもだからといって、「転生者の日本人(同郷者)が敵に回らない」ということにはならないんですよね。とくに物語の黒幕であるユウキの存在は、転スラのミスリード要素として優れている部分になっています。(レオンがラスボスと思う人はたぶん少数派だと思うし)

▲ 怖い怖い…w

黒幕フラグはしっかりあった

物語の黒幕であるということは、ファンタジー作品のお決まり上、「邪悪な存在である」とほぼほぼ同一のことを指しますが、タイトルにも書きましたけど、初見ではユウキ・カグラザカが敵に回ることは筆者はとくに予想していませんでした。

シズと同じく、珍しい異世界転生物語内の同郷人として見ていましたし、ユウキはまったく普通の青年――総帥としては腰の低い日本人らしい青年として描かれていますからね。(WEBの目次はざっと見る人間なので、予想もなにもないはずですが、忘れてました笑)

▲ 上漫画版のユウキ、下書籍版のユウキ。カガリ(カザリーム)は結構好き。

WEB版での会話然り、漫画版でのまったく普通の、むしろかわいい部類の好青年っぷりを見ても然り。面白いですよね。

ただ、WEBの方は目立った伏線はとくになかったのですが、漫画版には実はしっかりと「黒幕ってユウキじゃない?」と思えるようなフラグコマがあり、アニメ版でも、ぱっと見のユウキにはそんな雰囲気を見れなくもありません。

▲ この後にユウキが初登場する(漫画版10巻より)

アニメ版のユウキ像は自由連合の総帥、ないし不完全召喚された子供たちを憂いているただの好青年キャラとはちょっと見えない、暗さが気持ち増している顔つきがあります。

▲ アニメキャラには珍しく、普通の好青年にしてはアゴがちょこっとだけ尖り気味のリアル顔+目が割と怖い。“クマ”的な影も、ユウキを臭わせるためなら、結構絶妙。

頭脳派

で、具体的にユウキがどのような悪い人物なのかというと、思念誘導、精神操作系のスキルの使い方が巧みで、いわゆる頭が極めてキレる人物です。さらに自然体です。だから演技派と言うまでもなく好青年を装うこともできています。初めに見せたリムルへの怒りは9割がた演技ときています。

「ありがとうございます師匠ー!」

▲ ただし漫画に対する喜びようはそうでない可能性あり。電子書籍なら場所は取りませんことよ( `ー´)ノ来客が多いなら、置いておきたいところ。

また中庸道化連のボスで、クレイマンにも指示を出している人物であり、さらには各地に支部を持つ自由組合を大きくしたトップでありながら、犯罪組織「三巨頭(ケルベロス)」のトップでもあります。

結構早い段階でこれは判明して、リムルたちとユウキは伝記もの因縁の相手のように戦いを続けることになります。ユウキは歳を取らず、リムルと同じくスキルを解析して入手するスキルや、魔法・能力を無効化するスキルを持っています。触れただけで相手を確殺する「奪命掌」、また味方にする「奪心掌」などを持ち、一筋縄ではいかない相手です。

「で、これだけ暴露したら、大抵黒幕が負けるじゃん? フラグって言うのかな?
これだけ盛大にフラグを立ててお膳立てしたんだし、精一杯頑張って僕を倒してみてよ。
もしかしたら、勇者に覚醒して僕達を倒せるかも知れないぜ?」(web122話)

ぱっと見、主人公たちのその後のような黒幕

中庸道化連をまとめているというのも納得の、どこか子供じみた邪悪さを持つ性格を除くと、ユウキ・カグラザカはまるでマンガや小説の主人公のようにも見えます。

見た目はもちろん、魔法の類は一切使えないけど身体能力や格闘術などには優れ、また魔法やスキルを封殺することには長けているとか、最近の力をセーブされた主人公像、とくに最弱系の主人公にはよくありますしね。組織のトップになっているユウキはさしずめ「主人公たちのその後」と言った感じ。

いわゆるユウキのようなぱっと見平凡な先代の主人公が、“なにも若くなくてもいい+人間でなくてもいい”と考えられつつもある次代の主人公であるリムルに敵対するとしてみても、なかなか面白い構図です。

召喚される前のユウキは超能力が使えた少年であり、さらには天才でした。幼いながらお金を稼ぐこともできてしまう類の。ただ、両親を事故で亡くしていました。フィクション的には悪の親玉の過去として相応の悲劇にも思えますが、事故の内容は単なる居眠り運転の衝突事故でした。とはいえ、ユウキを歪ませるには十分でした。

魔王がたくさんいる物語の黒幕にしてはユウキの生い立ちや見た目は平凡で、インパクトに欠けるようにも見えるところ。でもふっと思うのは、「人間の物語では魔物(魔王)が最大の敵。魔王がたくさんいる魔物主体の物語なら人間がそうなるんだな」という部分。各分かりやすい魔王たちのように世界の破滅を目論むだなんて、動物のなかでも唯一理性的で知的な人間は確かに表立っていうはずもありません。

 つまらない。この世界は、本当に退屈だ。

それが、偽らざる彼の本心。
だが、逆にその事で、彼の暴走は抑えられていたと言える。
そんな彼が、世界を渡ってしまった事は、ユウキにとっての僥倖であり、他者にとっては不幸な事となる。(web132話

また、ユウキを邪悪な存在かと言われると、微妙なところにも思えます。天才の作り方・育て方を広く知られている今の世の中、天才的思考を持つ人々はたくさんいて、と同時に、大なり小なり「世の中が退屈だ(創るのが簡単だ)。支配というゲームはなかなか面白いんじゃないか?」という思想を持っている人は割といるからです。思想を持つこと自体は罪ではありません。実際に実行に移し、法律を犯してしまうことが罪です。

召喚され、自分の持っている考えのほとんどすべてが、転移先ではことごとく「先をいっている先進的な考え」だったのなら? 法律とか寿命とか精神・肉体の限界などの制限がなくなるのなら? 多くの人が、“俺TUEEEE”に身を乗り出しそうです。

 この世界に、破滅を齎そう。止められるものなら、止めてみせろ!

それが、ユウキの行動原理。
理不尽な世界への歪な報復。
だから、ユウキは焦る事は無い。失敗しても構わない。
もし成功したならば、それは世界が滅ぶ事になり、最高の快楽と愉悦の中で死ねるだろう。
もしかすると、新たな世界を創造し、神になる事も可能かも知れないけれど……そこまではユウキは望んでいない。
彼の望みは、世界への挑戦。歪んだ望みを叶える事なのだ。