レジェンズ前作であるお江戸的なアルセウスはDP(ダイヤモンド・パール)の外伝という位置づけでしたが、今作Z-Aの舞台は5年後のミアレシティであり、外伝というよりXYの続編の色合いが強い作品でした。
今後もレジェンズはこういう両路線(外伝か続編か)でいくのかもしれませんね? これは個人的に結構楽しみです。未来方面はポケモンは苦手そうですが、開発のアイデアも豊富に湧きそう。
で、ZAになると、F(エフ)という人物が登場します。
彼の正体はご存知の通りでなくともXYのフラダリなわけですが、彼は作中でそれほど語らないままにストーリーからフェードアウトしてしまいました。少なくともとりもげはそう感じました。
今回はそんなFことフラダリに焦点を当ててつらつら考えを寄せてみます。
目次
Fの正体
▲ フラダリ「XY公式」より
上で書いたようにフラダリは、XY(2013年発売)で登場した人物です。
ホロキャスターの開発をしたフラダリラボの代表であり、後にフレア団のボスであることが判明しました。
▲ 今見てもなかなかぶっとんでいる団員の見た目
フラダリラボは通信機器をはじめとした開発事業組織ですが、フレア団は悪の組織枠。ようは同じ組織。なのでフラダリは悪行を遂行します。
当時のポケモンストーリーの通例通り、彼は「(作品によって多少内容は前後しますが)その地方ないし世界に甚大な被害を及ぼす世界を危機に陥れる計画を打ち立て、主人公に計画を狂わされた末、敗れる」という通年の役目をまっとうしました。
その際、フラダリは死亡したと見られていました。
フラダリの人物像~堕ちた背景
フラダリの人物像を追う時に、「ポケモンジェネレーション」は参考になります。
「エピソード16:永遠の美」は、当時のフラダリの周辺を丁寧かつ現実に即して描かれています。
何不自由なく育った
悪役にはたいていろくでもない育った環境以外に悪に染まった、あるいは堕落した後天的な背景があったりするもの。彼はおそらく後者でしょう。
彼の家族構成や子供の頃の生い立ちなどはXY内で語られてはおらず、推測するほかはなさそうですが、アニメーションも示している通りにフラダリの育ちはおよそ悪いようには見えません。
彼は、電子機器「ホロキャスター」を開発したフラダリラボの代表である他、個人としては世界を救済する活動、つまりかなり大々的と推測される資金援助、寄付などを行った社会投資および慈善活動の経歴で知られていました。ホロキャスターとはホログラムシステムを利用した通信機器・映像記録端末です。(ZAではホロ技術はそのままにスマホロトムに取って代わってる)カフェ経営もしていますね。
カフェ事業はともかく、これらの活動の多くは彼の抱いている思想、「美しい世界、輝かしい未来をつくるため」に準拠しています。立派な考えです。
こんな立派な思想、言い換えれば意識の高い社会奉仕精神を抱く人物が、エリート教育を受けつつ、規模や程度は分かりませんが誠実な愛情も伴った家庭ですくすくと育ったことにとくに疑問は湧きおこりません。ゲーム内だと少し理想の追求面での性格の頑なさや、そこに孕む不安が強調されていますが、物腰も柔らかいですしね。
理想と壁
ただ、彼のこうした善性の強い活動と理想を追い求めた純粋な思想は壁にぶち当たりました。若い頃、つまり20代あたりに世界中を旅をしたようですが、もしかすると初めての壁だったでしょう。
有限の資源の枯渇を心配せずに浪費し続ける、あげく奪い合ったりする、援助をしてもさらにたかるなど、具合的なエピソードはゲーム内では語られてはいませんでしたが、主人公たちがメガストーンを巡って戦ったことを例に出したように、こうした人間の嫌な側面を彼は真摯に受け止め、嘆いてしまったようです。そして彼は人そのものに嫌気が差すに至ります。彼は人に失望しました。主に浅はかさに。そしてこの先の未来も絶望視しました。
やがて彼は、「この世界の修正はもはや“自分には”不可能」だと踏み、この思想は歪みました。その末が世界浄化計画ですね。こうして書き出すと創作の悪人の心情の変化ではよくある流れに見えてきます。
重ねて言いますが、彼はひとえに美しい世界(カロス)と輝かしい未来を望んでいました。自分の金銭的支援が世界を明るい未来へと導くと強く信じていました。
犯してしまった罪は確かに途方もなく重たく、彼は大罪人ではあるのですが、この考えは手痛い目にあい、記憶障害になっていたZAでも変わらなかったようで、その善性の信念の強さが改めて示されました。
この辺を知ってか知らずかは分かりませんが、ZAのユカリも彼を「名士」と言っていますね。理想を掲げるのは容易でも、実際に行動に移し、製品を開発して人々の生活を豊かにして功績を残す(理想に近づける)のは大変なことです。
情熱の孤独な名士

フレア団の赤はフラダリの情熱とされ、XYでの彼のセリフの饒舌どおりに彼は確かに情熱家でした。号泣シーンがあったりなど、感激屋およびロマンチストでもありました。(この辺はXYのテキストでも表現できています)文学詩とか絵画とかクラシック音楽とか好きそうです。
ただ、情熱に伴うこの強い責任感――ノブレス・オブリージュ(フランス語で「高貴なる者の義務」の意味。ようは地位ある者が寄付などで社会の発展に関与すること)を表現したとも考察されている貴族的な情熱は、選民思想やフレア団以外の現代人を切り捨てる決意をも抱かさせてしまいます。
彷彿とさせるのはローズです。ただし彼は孤独ではなく、お茶目な人物で、最後は自首するという幕引きです。
XYは友人たちと友情をはぐくむ、とりわけ子供向けを意識したようなストーリーラインが強調されていましたが、そんなありふれた光景が彼には必要だったのかもしれません。こうなってくると、彼の子供時代は勉学の傍ら様々な美しいものに触れる一方で、少し寂しいものだったのではないかとも想像してしまいますね。これもまた数々の悪の組織、大罪人たちに対するお馴染みの感想なんですけど。
▲ ジェネレーションズep16のその後。こちらはフラダリが実際にゲーム内で起こした事件を忠実に描いたもの。フラダリの声が老けすぎてやだ。
最終兵器

▲ AZとフラエッテの再会前後を描いた「ポケモンジェネレーションズ エピソード18」より
ちなみに、この世界浄化計画はAZが3000年前に製造した「命を与えるキカイ」を彼自らが改良した「最終兵器」(これは兵器の名前)です。
言ってみれば巨大なビーム放射兵器なんですが、周辺の人々やポケモンを一網打尽にするのはもちろん、装置の製造には無数のポケモンの命を捧げられているという(ポケモン的にも)相当ヤバい代物です。もちろんこれは開発者のAZが使用しました。蘇生はさせたもののフラエッテを殺した世界に対する怒りに任せて。
このあたりが歴代悪の組織の悪行としてトップクラスと言われる所以でもありますが、このビームのエネルギーにはゼルネアスとイベルタルのエネルギーを用いられていました。3000年前の文明なので、エネルギーの源がポケモンにしか見つからなかったのかもしれません。
XYでは主人公たちがゼルネアスないしイベルタルと出会い、エネルギー源である彼らを開放(捕獲)してしまったがために計画は頓挫してしまうのですが、フラダリは最小のエネルギーでもとあがき、基地を爆破させてしまいました。有能な人物ではあったでしょうし、決断が過ちではあると気付いていそうなそぶり、止めてもらえるなら止めてほしいと心の奥底では思っていそうなそぶりは節々であることはありました。
フラダリが大罪を犯した外部的要因
さて、なぜ彼が世界浄化計画という暴挙をするに至ったのか。
少し気になったので掘り下げました。
1.資産家・権力者であること
1つ目は資産家・権力者であることですね。「莫大な金は人を狂わせる」の定番要素のアレ。
金があれば何でもできますからね。平均的な収入の一般人なら、自分の基地/研究所を製造しようなど考えもしませんし、世界を変えようとはそうそう思いません。逆なら話は別。単純な話です。
とりもげは彼は元から資産家の出身な気がしていますが、慈善事業を日夜行い、街に浸透するほどの通信機器も開発したとなれば彼自身にも権力がついてきます。権力が人を狂わせるのも同様で、この辺はポケモンの悪の組織に限らず、他作品の悪の組織でも見られますね。
莫大な金、地位と権力、偉大な技術力。何でもできるというものです。どれも世界を支配するために重要な要素です。本編ではありませんが、「ポケットモンスターSPECIAL」で描かれているものだと、フレア団はカロスのマスメディアをはじめ、政治・財閥・警察をも取り込んでしまっていたようです。フレア団ヤバすぎる。
2.王弟の末裔
プラターヌ:そういう フラダリさんこそ 王家に 連なる者の 子孫…… 選ばれし者 なんだよね
フラダリ:ええ! 王の弟 その血を ひくようです とはいえ 3000年も 前の 話ですから 怪しいものですXYより
2つ目として、彼の先祖はAZ、つまり3000年前のカロス王の弟であることです。彼曰く、3000年だから怪しいとのことですが、彼は信じているように思います。
少なくとも彼が行動するきっかけにはなったでしょう。号泣するほどの情熱家で美しさにこだわるロマンチストなこともありますし、ある種の「使命感」を持ったように思います。
「私がこの兵器を用いて3000年前に戦争を終わらせた者たちの末裔であるなら、その後の人々の不始末も自分がつけるべきだ。この末裔の私が……適任だろう……他に誰ができる! 他に誰がこのような……!(号泣)」とか。
▲ 美術館内に飾られている王の弟の子孫を描いた説が有力な絵画。フラダリと類似点を見つけられそうな意志の強そうな顔立ち。
3.手つかずで放置されていた兵器
▲ 最終兵器深部。エネルギー炉にはゼルネアスがいる(Xバージョン)
3つ目は、「世界を浄化できる装置が手つかずで傍に存在していたこと」です。
もし、最終兵器のような兵器が現代に野放しにされているのなら、相応の大規模な封印処置がされているはずです。もしくは破壊されてるでしょう。
ですが、最終兵器のあるセキタイタウンの人々はまったく知らぬ存ぜぬでした。「不思議なパワーを持つ」とか「お守り」とか考える始末で、どうやって列石(巨石)を並べたのか、そんなことを不思議がっているありさまです。
それもそのはずというか、最終兵器は王弟により地中に埋まってるからなんですが、3000年前の出来事がセキタイタウンしいてはカロスにはほとんど伝わっていませんでした。王弟は悲劇が再び起こらないようにと言い伝えたようですが、残念ながら、言い伝えは風化してしまったようです。
そうすると、なぜフラダリがそのことを知っているのかということになりますね。自分で調べた末なのかもしれませんし、家にあった資料からなのかもしれませんが、いずれにせよ、彼の計画を実行するための「鍵」――AZが首に提げていた最終兵器を起動する鍵も近くにありました。彼が痛恨の極みのなかに抱いた浄化計画の使命を阻むものはなかったと言えます。
Fについて
左目
話をZAに戻します。
死んだと見られた彼ですが、爆破により地中に埋もれた彼をジガルデが救ったとのこと。意思疎通が図れるのかは不明ですが、フラダリはジガルデの意志がジガルデセルを集めることだと認識していました。なぜジガルデはフラダリを選んだのかについてはひとまず置いておきます。(大人の事情な気もするので)
生還したフラダリことFは、記憶をほとんど失っていました。髪は白くなり、左目も白くなっていて失明している様子。喋り方もすっかり落ち着いています。
気になるのは左目。ポケモンバトルの際に彼は左目を開きましたが、白いのは同様ですが、少し変わった光り方をしています。
左目のマークのようなものが何を意味しているのかは不明ですが(たぶん何かを模していたりするんでしょうけど)、フラダリの元々の瞳との色は青だったところを見ると、どちらとも最終兵器の光由来な気はします。
白髪
白髪になっているのもまた、最終兵器の光を浴びた影響でしょうね。
もちろん、事故の後遺症で白髪になってしまったと見ることもできなくはないのですが、同じく最終兵器の光を浴びたAZも白髪です。以前は戦争中は黒髪でした。
3000年後の姿
AZがそうであったように、最終兵器の光を浴びると人は長命になります。ただ、不死ではないようで、ZAではAZは3000年という長すぎる生を終えました。
そうしてジガルデ戦のあと、Fは「3000年も生きねばならない」と半ばため息交じりにこぼします。
とりもげはXYのAZまわりをあまり覚えてなかったので、「ん、なんできみが?」と直後は首を傾げてしまったのですが、彼はAZと同じ末路を辿ることになったわけですね。重すぎますが、贖罪とも言えそうです。
ついでに最終兵器の光には、手足を長くする作用もあるようです。服が補強されているのは単に彼が世捨て人のような生き方をしていたことの表現(もしくはAZのようになるという暗示)だとは思いますが、姿勢が悪く見えるのは、既に骨格が変化し始めていると見ることもできるかもしれません。
▲ 3000年後のフラダリ(まじめに)
3000年の予定
さて、3000年を生きることになったフラダリですが、AZにはフラエッテという目的がありました。彼には目的はあるのでしょうか。
冒頭に書いたフェードアウト時の主人公との語らいですね。

記憶はあまりないはずですが、美しい世界を求める考えはあるようです。ただし、美しい世界にするために行うことは、物理的に与える(資金援助)のではなく、資金を得るやり方を教える側に立つとのこと。そして、救済される者の心を満たすべきだったと彼は述懐します。
AZは3000年の間、フラエッテを求めて彷徨っていました。彼はそれ以外のことはさほど求めていなかったように見えます。足取りは世界中に及んだようですが、死人のようだったかもしれません。
フラダリとは別ベクトルですが、とにもかくにも期間が3000年間です。AZのフラエッテへの愛情は言葉通りに海並みに深く広く、フラダリ以上の途方もない執着心とも言えます。
AZとは違い、あまり死人のようにはならなさそうなフラダリにはFとなった今でもある程度明確な意志とビジョンがあるようです。思想家、講師、機器開発の助力、起業アドバイザー、たった一匹のポケモンへ想いを募らせるばかりだったAZよりは遥かに人と世界に役立つ活動ができるように思います。
ZAのストーリーではFと別れた直後なことにくわえ、人生スケジュールが3000年では、彼がこの先どう生きるのかはまるで分かりません。なんにでもなれるでしょう、3000年もあれば。経営アドバイザーや組織のトップとして以前のようにちゃきちゃき活動していることがあるかもしれませんし、突然失踪して無気力になることもあるでしょうね、3000年もあるんですから。
こうして辿ってみて1つ思うのは、ZAプレイしてよかったなという彼へのエールを含んだ静かな感情です。
彼とバトル時に流れる専用BGMもそんな人として成長した、というより「別人」として生まれ変わった彼の旅立ちと門出を肯定し、送り出すようなメロディアスな一曲に仕上がっています。XYとZAの彼との戦闘BGMを、是非比較して聞いてみてください。(でもフラダリ戦はやっぱXYしいては歴代でもトップクラスにかっこいい楽曲なんだよなぁ……)

オバロ、落第騎士、リゼロなど。