ロクアカ

ロクアカ/セリカアルフォネアがヒロイン化したらロクアカはもう一皮剥けてくるのかもしれない

筆者はロクアカのアニメ化を知る以前、原作を手に取ったことがありました。(Amazonの欲しいものリストに入れた)それが短編集1巻の「ロクでなし魔術講師と追想日誌」でした。

本編1巻から読んでいたわけではないので、内容はもちろん知らず、タイトルや商品概要などで推測する程度でした。で、手に取ったわけですから、気にはなっていて。その推測の中でラノベファンの一人なりにこう思いました。

このジャケットの1シーンはどういう状況?この主人公はベッドでかなりくつろいでいるけども。ヒロインらしき美女の横で。しかも、ヒロインの表情はひどく優しげだ…」(実際、短編集ですから、グレンが主人公でない可能性も含めてここまで深く明確に考えたわけではないです。)

ロクアカが、そのモテっぷりを通して、恋愛ですらも軽くフィクション化する彼らが大活躍しているラノベ出の話でなかったら、それほど気にはならなかったのかもしれません。

今回はそんな、先日のセリカ記事の補足にもなりますが、外見は年上女性のセリカが(特にラノベの)ヒロインになる可能性についての話です。

「ほんとにやんの?」
「やるよー? 水着の用意しなくっちゃあ!」

水着はやく^-^

年の差恋愛は難しい事情

先に、セリカが一般的には、ヒロインの一人にすらならないことについて。

セリカ=アルフォネアは外見上は若くて20~25歳くらいです。妙齢の女性ですね。とはいえ、アニメやラノベに限らず、ファンタジー系列の多くの男性主人公は未成年です。

そのため、当然ではありますが、主に精神方面でそりが合わず、いまいちヒロインにはなりづらいという事情があります。ほとんど母親役だったり、下手をすると主人公が反抗してばかり、あげく対立するというケースすらあります。

またセリカは作中屈指の実力を誇る女性キャラということで、その凡例のままに、理事長ではないですがアルザーノ学院代表魔術講師の地位にあります。もちろん美女。

「ああ楽しいよアリス。実に胸がすく思いだ」
「それほど彼はすごいのですか?」

▲ 女王アリシアと親しい辺り、リック理事長よりもずっと権力がある

この2点だけを見れば一般的に、セリカ=アルフォネアはラノベ・アニメ的には珍しくない美女キャラにも思えます。その聡明さや果敢な判断力、または権力などで、期待値はあるけど色々と未熟な主人公をサポートしてくれたり、叱ったりしてくれる準主役のキャラのはずですからね。

「つ~ぎ~は~外さん~!!」

主人公との付き合い方でも恋愛対象にはならないままに、義姉であり、義母であり、そして、ファンの一部からはやがて親しみを込めて、恐る恐る「BBA」と呼ばれるという。…グレンからも割と日常会話で言われているという。(笑)

ファンに若い人が多いからという理由もありますが、基本的に、主人公と年上女性との恋愛は少ないのがラノベ、アニメ界隈の恋愛事情の一つでもあります。(舞台裏やエンディングでこっそり結婚して幸せになるのも、このポジションの女性キャラたちだったりする。)

同棲の仲にある二人

もちろん中には彼女たちが恋愛対象、ヒロインの一人になっている作品もあります。基本的には群像劇系恋愛ものやラブコメ。(何かが“具現化したもの”も多い。)

妙齢の女性、つまり5歳以上年上の女性をヒロインの一人として数える作品の場合、多くの彼女たちは、主人公が初心だ奥手だ、はたまたその主人公らしい(異)能力と男性らしい蛮勇に惚れたという理由から、冗談であれ本気であれ、積極的に自分からアプローチしていきます。余裕のある女性の為せる技とも言いますね。(たまに、婚期を逃した云々の発言をしたり、「ウガー!」と発狂する。)

でも、セリカとグレンの間柄は、それら年の差恋愛フラグの諸々を飛び越えて既に「同棲の関係」にありました。しかもグレンは1年間“ヒモ”でした。犯罪人と老人の心象までしっかり描く一般小説界隈だったら第一人称なり第三人称なりヒモ男を描いているのはままありますけど、ひとまずラノベ・アニメ界隈では、ろくでなしはあっても、ヒモ男はほとんどありません。

「ちなみにお前に拒否権はない」
「嫌だと言ったら?」

「稲妻撃たれるかそれとも炎で焼かれるか。なんなら氷漬けもあるぞ」
▲ 二人の生活の内容は何度見ても楽しい1話でも少し触れられている。無理やり魔術講師にしたのは、魔術を好きな気持ちを思い出して欲しい理由と、魔術師の権威である自分もまた嫌われているかもしれない不安を消したい思惑もあった

現行9話以前では、確かグレンの生い立ちに明確には触れてはいないところ。といっても、二人の若い母親と息子、あるいは姉と弟のようなやり取りや両者の苗字(ファミリーネーム)が違う点などから、血が繋がっていない・グレンに親がいないくらいなら十分察せられるようになっています。

「心配かけたな…悪かったよ」

血が繋がっていなくて、一緒に住んでいる。かなり仲がよくて、しかもグレンはしっかり照れる。いくらグレンがヒモ男でろくでなしだからといって、フラグは分かりやすいくらいに立っています。(グレンはありえねえ!って言うだろうけど(笑)。)

「するか!大体お前みたいな女見慣れたらそこらの女に興味持てるかっつーの!」
「おや~?」

「私の事をそんな目で見ていたのか~?この変態~」
「そんなわけあるか!寄るな!胸押し付けんな!」

ですがグレンはセリカを「お前のような女に見慣れていたら他の女に興味が沸くか」「胸を押し付けるな」と喚き、セリカはセリカで「ただあいつに生き生きとしていてほしくてな」と感傷気味に素朴な発言を吐露しては、グレンを自慢の弟子だとめいっぱい喜んだり、グレンの素直じゃない感謝にはわずかながら頬を赤めました。

恋愛フラグ以前に、二人の間には一つの確かな「家族の絆」があることがうかがえます。フラグは必要ない、ただの邪推のようにも思えます。なによりグレンには他にシスティーナと、ルミアという若いヒロインが二人もいるわけですからね。

ですがロクアカは別に大人向け作品ではなくしっかりラノベであること、それから、そのためか、セリカの生い立ちや立ち位置、その恋愛観は結構特殊だったりします。

不老不死者たちの攻略が難しい理由


▲ 幼いグレンと、現在と容姿が同じのセリカ

アニメ版でも実はこっそりと描写されていたんですが、セリカは不老不死の魔術師です。

不老不死者もまた理事長キャラと同じく作中最強の力量を持つキャラが多いですよね。主人公のサポート役にせよ、かわいい「わし」キャラにせよ、存在自体は珍しくないのですが、実際にヒロインとして考えると扱いは少し難しくなります。

それは不老不死者たちが常々吐露している、「自分の周り(ないしは伴侶)は年老いていくのに、自分はいつまでも時に逆らい続け、歳を取らない」というお馴染みの強烈な孤独感から。


▲ 物語シリーズのキスショット(忍)

仮にその孤独感が薄かったとしても、同時に何百年、何千年と生きてきた「仙人」でもあり、「史実の人」でもある彼ら。現在進行形で生きている人間の大抵が「子ども」にならざるを得ません。

精神年齢、踏んだ場数の豊富さなど、心のポテンシャルも相応で、その何百何千年で培った“心の防御壁”を切り崩して恋愛的に攻略するのには容易ではなく、仮に対応するにしてもスケールがでかくなりすぎる、というのが不老不死者をヒロインにするには難しい理由の一つ。不老不死者の現実を見せ付ける、腕や脚が吹き飛ぶ生々しい描写が多いのならなおのこと。(そうして、主人公をからかうだけ、視聴者・読者を楽しませる享楽家に留まります。)


▲ サザンアイズの三只眼(パイ)

でも一応やり方は昔からあって。不老不死者を(恋愛フラグ的に)人好きのするキャラにする手段に、「記憶を封じる」手立てがあります。

そうすれば、ひとまずそのはじめから分厚すぎ、老人めいてもいた、「仙人級の心の壁」の一つ目は取り払われます。人間はどうせ半世紀も経てば死ぬ、“だからどれも同じだ”という解決が難しすぎる暗い諦念もないままに、人間である主人公は、ようやく彼女を普通に、ヒロインの一人として接することができます。

「永遠者」セリカの場合

セリカにもそれがあり、セリカは400年前以前の記憶を持ちません。

ただし、セリカの場合は、自分の400年以前の生い立ち、不老不死者「永遠者」(イモータリスト)となっている理由と、自分の背負っている使命を知らないという意味に留まっています。不老不死者特有の諦念は持っているままに。

セリカがその無くしている記憶を必死に探しているのかと言うと、そこまでではありませんでした。過去を知らない焦燥感はありましたが、時折聞こえてくる『内なる声』に半ば従っているだけ。ですが、グレンを拾ったあとからはその記憶と使命を取り戻す欲求は強まっていきました。

グレンとの出会い

セリカのエピソードは現行全8巻中6巻でようやく披露されたばかりなため、メインエピソードというよりまだサブエピソードの扱いですが、話は不老不死者らしくインパクトがあり、スケールも大きいです。特に印象的なのは冒頭にも述べた、やはりグレンとセリカの出会いを描いた短編。

今よりずっと殺伐とした性格だったセリカはこの話で絶望します。元宮廷魔導士のアンリエッタから派遣された“グレン=レーダスという名の男の子”に甲斐甲斐しく世話を焼かれ、最上級の子どもの純愛をささげられ、そうして軟化したセリカが「家族になろう」と誘った直後に、グレン=レーダスは実は既に死んでいること、そのショックのままにお前は「弱い女」だとアンリエッタから散々言葉で嬲られつくしたことで。

短編ながら、作中でもとりわけ密度の濃いこの対話のあと、ピンチにあったセリカはアンリエッタを、グレン=レーダスともども吹き飛ばします。

塵も残さなかった空間の中で、心身ともに疲れきったセリカはもう死んでもいいやと考えますが、どこからか聞こえてきたのは子どもの助けを呼ぶ声でした。

死んでも死にきれないじゃないか…とセリカはその子どもを助けます。それがこの作品の主人公、10歳前後のグレンその人でした。アンリエッタの行っていた実験のため記憶は失われ、名前も思い出せず、そして、アンリエッタが村人全てをリッチ化(死んでいる)させたため、身寄りもない。

セリカは、従来の不老不死者ほどの仙人メンタルは持っていないセリカ=アルフォネアは、その男の子にグレン=レーダスと名前をつけ、一緒に暮らすことにしました。

不老不死者でヒロイン

「飽きずにまた調べ物かよ」
「ん、ああ……まあな」

セリカを追うと、その先のルミアの感応増幅能力の詳細や、メルガリウスの天空城含めてロクアカ本編の深淵部分も気にはなるのですが、その不老不死者としての人となりの不安定さと、そのために生まれているヒロイン力が印象付けられます。グレンとのコンビ含めていい意味で“ラノベしていない”んですよね。セリカにはヒロインにはならない彼女たち特有の「歳の差から生まれる主人公との距離感」がありません。

「自業自得だ。自分の力でなんとかしろ」
「学院長聞きました!?セリカのやつこれだから困るんすよ!」

▲ 関係ないけどここのグレンの動きは必見

「なんで私が悪いことになってるんだ?」
「頭潰れる~!助けて~!ママ~!」

そうしてグレンは茶化しますけど(笑)、セリカは本当にただの若いママにも見えて、実際それがセリカの“なりたい自分”でもあります。

心では強烈な孤独感のままに、ただひたすらグレンと真の家族になりたいと願い。本当にグレンの真の家族になれているのかと悩み。そうして自分の400年以前にあったはずの使命を知り、「永遠者」の謎を解けば、もしかしたら人間に戻る手段もあるかもしれないと考えた6巻のセリカ。

「それにしてもどうして講師を続ける気になったんだ?」

普通に考えたら、両者の間で家族を豪語するセリカとグレンがくっつくなんてことはあり得ないかもしれません。でもロクアカの先生ものジャンルは、システィとルミアにしっかりグレンとの年齢や経験の差、セリカとの実力差を感じさせてくれています。二人の若いヒロインのグレンに対する感情は感謝や憧れに近く、唯一セリカが人間化のフラグを立てたままにグレンから子離れ、離れられずにいます。

ぬ~べ~は妖怪であるゆきめと結婚しましたし、最近はモン娘だったりメイドラゴンだったり、少し毛色が違うけどけもフレだったり。人ならざる者との恋愛、家族愛を描いた創作やアニメは近年爆発的に増えていますしね。(デュラハンのヒロインや一つ目娘の漫画を最初に見た時はさすがに驚いた。)

「見てみたくなったんだよ。あいつらがこれから何をやってくれるか。暇潰しにはちょうどいいだろ」

セリカのグレンに対する執着は、ある種、家族愛に飢えたままにグレン=レーダスと名付けてしまった自分の愚かさでもあり、不老不死者特有の呪いともいうべき過ちでもあるのかもしれません。が、グレンが主人公らしく「お前はお前だ」と言い続ける限りは、人間化フラグが立ったままに生涯独身とは言わないまでも、セリカの不老不死キャラではないラノベヒロインらしい“大人なわがままな女”が維持され、ギリギリまで結婚をしないグレンの姿も見えてくるところでもあります。今は、ひとまずミニアニメでそんなセリカの大人で、BBAでない、かわいいヒロイン力は披露されていますけどね。(笑)

「あー、でも、将来、お前が誰かと結婚して家を出て行ったら寂しくなるなー、たまーにでいいから会いに来てほしいなぁー? お母さん、寂しすぎると死んじゃうぞー、寂しさあまって、地下迷宮とか突撃しちゃうぞー?」
「何、言ってんだ、バカ!」