最終話で次の展開にまつわる伏線を残して終えるのは、アニメではよくあること。
伏線は、ただ単に一つのミステリーとして話を盛り上がる要素として扱うこともあれば、原作のその先の巻が欲しくなる販促目的の要素として気軽に用いられることもあります。
転スラに限って言えば、2期製作が決まっていたでしょうから、ふつうに2期への期待を煽る要素として用いられた線が濃厚そうです。
▲ といっても、本来何も知らないはずのヒナタを木の陰からうかがわせたり(活字書籍は未読です)、正直そこまで上手な煽り方ではなかった。2期ではマンガ版9巻をバッサリカットしてしまった構成含め、この辺りしっかり描いてくれるのを期待、とはファンの意見として散見しているところ
そんな最終話で張られたいくつかの伏線の中で、目立った伏線の一つがクロエ・オベールに宿った謎の美女精霊の存在でした。
クロエ・オベールの正体
クロエ・オベールと似ているようで、微妙に雰囲気が違う、23話で出てきた謎の美女精霊。この美女精霊は、クロエであるとも言えますし、クロエでないとも言えます。
先に前提条件として触れておきますが、クロエ・オベール=勇者クロノアです。(つまり、勇者クロノアも転生者だったということですね。)
▲ こちらの両者も若干似ていて、仮面の存在もあり、疑った人もちらほらいたけどけどシズ≠勇者。似せようと意図していたかは不明で、おそらくは作画的に髪色含め、雰囲気が似てしまったという程度。奇しくもブラフになったようだけど、もう少しシズや勇者の顔立ちに個性が欲しかったのは確か。また、ヒナタ=勇者、ヒナタ=シズでもありません。
勇者クロノアは、回想シーンでシズと手合わせし、胸で泣かせていた女性の勇者であり、ヴェルドラを『無限牢獄』で封印した勇者ですね。
アニメの本編では確実にそうだと言っているわけではありませんが、クロエとの容姿の類似や、かつて戦ったヴェルドラを通じた美女精霊とクロノアの姿の一致、さらには美女精霊がクロエに憑依した時点で同一人物か関連人物であるとはだれもが分かるようにはなっています。「精霊としての憑依」というのが同一人物として見るには弱い根拠であり、なかなか憎い演出です。(笑)
勇者クロノアの持つ能力
▲ 1話のヴェルドラの回想でクロノアのことは大放出済み
で、そうなると、300年前にヴェルドラと戦い、『無限牢獄』で封じた勇者の存在がちらつくと思います。シズと剣を交え、仮面をあげた勇者と容姿が一緒ですからね。
あれも深読みするまでもなく、勇者クロノアです。つまり、勇者クロノアもといクロエ・オベールには、何らかの作用により長寿であるか、時を渡る能力があるのだろうというおそらく二択の考えに行きつくと思います。
答えは、後者です。勇者クロノアには時を渡る能力、『時間旅行』があります。壮大な異世界ファンタジーには大なり小なりタイムリープ設定はよくありますが、転スラにもあったということですね。(ややこしいので触れておくと、「勇者クロノア」は過去のクロエの勇者としての活動名で、「勇者クロエ」は勇者の資質を持った成長したクロエのこと。)
時を渡る理由【勇者育成プログラム】
それにしても勇者はなぜ時を渡る必要があったのでしょうか? 答えは、クロエを、つまり自分自身を生存させ、より強くさせるためです。
勇者クロエが時を渡らなければ(過去に飛ばなければ)、自身は敵に敗北し、未来が悲惨になる。勇者クロエは悲惨な未来を避け、仇敵を倒すために、人々を救う勇者の肩書らしく、延々と別の時間軸をループしています。リゼロ、シュタインズゲート、All You Need Is Kill、そしてまどかマギカのほむらや、タイムリープではありませんがDBの未来トランクスのように。
ただしすべてのルートを勇者クロエがコントロールできるわけではなく、また、「同じ時間軸に同一人物は存在できない」という厳戒な規則もあります。
このタイムリープの一連の事象は、本編では、三人称により、【勇者育成プログラム】という呼称で扱われています。
▲ 自身の勇者化、ないしチート級の転生者であることを隠していくデスマのサトゥー。広範囲索敵や無限収納、偽情報も看破する鑑定能力などのチートっぷりのおかげもあるけど、その徹底っぷりは割と随一。
転生者の多い転スラではほかに勇者は何人かいますし、他の転生ものでも勇者はよくいますが、こういったプログラムが強制的に発生するなら、リムルだったり、デスマのサトゥーだったり、勇者化を回避する“自称へたれ”な転生ものの主人公たちと同じように回避したくなりますね。
「ってなわけでオイラがケンちゃんを助けてやるのだ!ケンちゃんが成長するまではオイラが保護するよ。もしかしたらケンちゃんも勇者になれるかもしれないからね!」
▲ ケンヤは「勇者の卵」を新規に獲得した
ともかく、勇者には「勇者の卵」「勇者」「真なる勇者」の三段階の成長状態があり、タイムリープをせざるを得ない状況に陥っている元凶である世界の宿敵――ユウキを倒すためには、「真なる勇者」まで進化をする必要があり、さらに「真なる勇者としてフルパワーを発揮できる」必要がありました。
そのためにはまず、ユウキのいる現代ではなく、ユウキの手の届かないもっと安全な場所――過去にて勇者としての地力を鍛える修行をする必要があり、そこで出会ったのがヴェルドラやシズで、安全にフルパワーの自身でユウキ戦に臨むために、他にもさまざまな細かい正解ルートをたどる必要があったのでした。
【正解ルートの例】
- リムルがヒナタに殺されない(落ち延び、代わりにシオンたちが殺される)
- リムルとヒナタが交戦中に幻影のシズと会い、ヒナタについたユウキの邪蟲が除去される
- リムルと和解したヒナタがユウキに殺害される
- ルミナスがヒナタを蘇生すると同時に、ヒナタの魂に同調していた勇者クロノアも復活させる
ちなみにこのタイムリープは、イングラシアから帰国するリムルをクロエが引き留めるか否かが、始めの分岐点です。
23話、つまり1期の本編最終話から、タイムリープの始まりの鐘を告げたわけです。
子供のクロエに憑依した宿った精霊は何者?
「でもねあれは多分未来で生まれたのよ」
「はぁ?」
「未来からやってきた精霊に似た何か!」
「とても信じられないけどその子に宿ったことで自分を生み出す土壌を作った…?」
クロエにまつわる事のあらましは上のようになっていて、ラミリスがなんとなく把握していますが、気になるのは、タイトルにもしていますが23話で子供のクロエに宿った、成長したクロエのようなよく分からない存在です。
この精霊は、勇者クロノアがユウキにより死ぬ間際に生み出した、言ってみれば精神体の分身体で、「分霊体」や「時の精霊」と呼ばれるものです。この分霊体には過去を旅して修行した記憶や経験、『時間旅行』のユニークスキルが封じてあります。
これを子供のクロエが憑依することで勇者の記憶と知識を継承し、時間を飛ぶ能力を得るわけですね。まさに時間を飛ぶこと、タイムリープを利用した、勇者を育成するという計画になっています。
《解。上位精霊と同様のスピリチュアルボディです。異常なまでのエネルギーを検知。上限は測定不能です》
▲ 大賢者もある程度は解説してくれている
アニメ版の分霊体と、ラミリスの警戒心について
ちなみにアニメ版の絵で、子供の頃は可愛らしく、成長すれば美少女ないし美女になるクロエの分身にしてもどこか悪魔っぽい狂気を孕んでいるのは、無邪気な存在である精霊的な存在にするためでしょうね。
口づけをしたのは、救ってくれた恩師であり、拙い恋心ながら想い人でもあったクロエのリムルへの思慕の残滓と言えるもの。ただ、何百年もこの恋心は所持することになるので、そんな一言であらわされるような恋心ではもはやなくなっているとは思いますけどね。
「未来であれが生まれたら大変なことになる気がする!もしかしてあれは時の大精霊を加護を受けて…!」
また、これも確か作中では明確には触れられてはいなかったと思いますが、ラミリスが分霊体に対して臨戦態勢になり警戒心をあらわにしたのは、「大変なことになる」の言葉通り、“このままでは”未来が破滅するから。
実際タイムリープものには、悲劇的な終幕を含めて「変えられる未来」の地盤となっている「変えられない未来」が存在していて、変化した「変えられる未来」の内容を延々と繰り返して“正解ルート”を模索するわけですが、クロエにまつわるタイムリープもまたユウキによる世界の破滅を回避するために分霊体を過去に送ることから始まったのであり、一応分霊体は「未来を変えるために必要な部品」の一つなわけですが、分霊体そのものは破滅する世界からやってきた「破滅をもたらす存在」でもあるわけですからね。(ちなみにweb版でのラミリスは分かりやすく、クロエを殺そうとして即死攻撃を放ち、リムルに軽く阻まれてます。)
「ところでやっぱり教えてくれないんですか?どうやって解決したのか」
▲ 陰で子供たちを召喚していたユウキは、どうやって魔素を安定させたのか知りたがっていた
また、ユウキというラスボスを倒すためという正義の大義名分は別に、分霊体の持つ破滅をもたらす存在としての危険性をラミリスは察知して、警戒したわけですが、かつてミリムとギィの喧嘩を調停した世界のバランスを保つ存在として(そのまま二人が喧嘩していたら地図の大半が荒れ地や海になっていた)、時を渡り、世界の均衡を崩そうとする存在を見逃せなかったという精霊女王であり調停者としての側面もあるのでしょうね。時を渡る存在なんて、世界の均衡を崩す最たる存在と言えますからね。
「私が、私こそが世界のバランスを保つ者なのだよ」