転生したらスライムだった件の20話は、かなりアニメオリジナル要素の強い内容になっていました。と同時に、原作をしっかり読んでいる原作ファンの人には、ちょっと物足りない内容だったようです。
というのは、20話は、カリュブディス戦勝利後のアニメオリジナルなお祭りと入浴が前半、イングラシア王国に行き、ユウキと会うのが後半の内容だったわけですが、原作の9巻(コミック版)をほとんど丸々カットしてしまっているからです。
9巻が丸々カットされたことについて、筆者は原作ファンの一人としては残念には思っていますが、そこまで否定的な意見を持っているわけではないです。今回はそこら辺にも触れていきます。
「ぬっはっは!これくらい朝飯前、いや晩飯前じゃよ」
▲ そんなアニメ版ではハクロウおじいちゃんが妙に活躍してます。ネタの方向で\(^o^)/ ちなみに実はお料理上手な方です。
目次
9巻で起こった出来事
まずは、カットされた内容について触れておきます。
ユーラザニア国の面々がやってきた
「そんなことでいいのか?よかろう魔王の…いや獣王国ユーラザニア ビーストマスター カリオンの名において貴様たちに刃を向けぬと誓ってやる」
アニメ版19話でカリオンが快諾したままに、テンペストとユーラザニアは「不可侵条約」を結ぶことになりますが、そのためにまずはお互いの国に使節団を送ることになりました。このエピソードでは、テンペストに使節団がやってきたその様子が描かれています。
ユーラザニア最高幹部の三獣士である蛇の美人獣人アルビスと虎の獣人スフィア、そしてグルーシスなど、獣人たちが複数登場したことはもちろん、シオンの“やっちまった”シーンもあり、結構印象深かった人も多いかもしれませんね。
アニメ化したらめちゃくちゃ動きそうなスフィアvsシオンの戦闘シーンもあり、魔力を持つものが触れるとお湯が出る仕組みの蛇口などのテンペストで使われている技術の説明があるなど、異世界転生&魔国創生記らしい細かい部分まで堪能できるお話でもあります。
ガゼル王からの招待と友好宣言の式典
使節団を送ったあとリムルはドワルゴンへ。目的は「友好宣言の式典」への参加。シュナの側近としての有能っぷりも見ることができる貴重な1エピソード。
リムルはドワルゴンの国民の前で、スライム姿+王様の羽織物を着て、カチンコチンになりながら「害意はありません、お互い仲良くしましょう(要約)」と、スピーチを行います。
が、ガゼル王からは「短すぎる・謙(へりくだ)りすぎる・情に訴えかけすぎる」の3パワーワードでお叱りを受けてショボンでした。リムル結構凹んでます。(笑)まあ、演説下手な日本人として頑張ったとは思うw
ガゼル王も久しぶりにがっつり出てきますし、エピソードとして面白いのはもちろん、またしてもシオンが今度はべろんべろんに酔って、“金曜の夜のOL感”のままに可愛らしくやっちまっているので、シオンが好きな人は堪能できる内容だっただけに、残念に思う人も多かったかもしれません。
ドワルゴンで夜遊びして怒られる
一方でシュナファンが惜しんでいたのはこっちのエピソードでしょうか。
ドワルゴンで演説をした後に、リムルたちはこっそり例のエルフパブ『夜の蝶』、ないし「約束の地」へ。今回は前回参加できなかったゴブタやほかのホブゴブリンたちをはじめ、名前をすっかり忘れられていそうなカイジンの弟カイドウも参加しての飲み会。
エルフのお姉ちゃんたちが目の保養なことは言うまでもなく、ゴブタが鼻血パフォーマーになっていたり、エルフの店主に演説が良かったと励まされたりする、こちらもまたいいエピソードと思いきや、シュナとシオンに夜遊びがバレるというオチがあります。( 短すぎる・謙(へりくだ)りすぎる・情に訴えかけすぎるェ…)
怖い怖い。(´-ω-`) そして罰を受けて、シオンの手作り料理を普通に食べられるようになっているリムルとゴブタの二人なのでした。
イングラシア王国への旅路
イングラシア王国に行くこと自体は、アニメでも描かれていましたね。
ただ、行くまでに原作では結構なエピソードがあって、イングラシアに行くにはブルムンドを経由するということで、まず案内役にカバル、ギド、エレンの三人を指名しています。(アニメでは三人はいませんし、ブルムンドに経由もしていませんね。)
道中では、ゲルドたちの現場宿舎に泊めてもらうことになったり、またもや魔物の巣をつついて「アリさん」に追いかけられたりしてブルムンドへ到着。ここからは10巻の内容ですが、ブルムンドでは身分証明として、冒険者登録をします。
試験管のジーギスに目をつけられ、行われた実地試験では、リムルは余裕でサクサク勝利。ジーギスに目に物を見せつつ、ブルムンド王との会談へ。あまり交渉事がうまくないリムルはちょっと失敗してしまいますが、義足のジーギスに飲ませたフルポーションの実演販売で仕返しをすると同時に、販路を確保することもできました。
盛大なカットは目標地点が明確だから
「(こっちの世界に来てからこれほど大きなガラス見たのは初めてだな)」
こうした内容のあとに、リムルはようやくイングラシアに到着して、アニメの内容に入ります。なかなかのカットっぷりです。リムル一人なので、ちょっと寂しいですね。
とはいえ、ひどくざっくり言ってしまえば、物語の本筋はシズの願いを成就させるためイングラシアに行くことなので、9巻の内容はすべてサブエピソードとも言えなくもありません。20話の放送内容を見ていたら、改めてそう思いました。一般的なアニメ的に言えば、ですけどね。
なにはともあれ、カットは製作サイドの方で明確な方針ないし「道すじ」があるということでもあります。とはいっても、アニメオリジナル要素も結構あるので、どこまで放送するのか、少し考察が難しくなりましたね。それはそれで楽しみなところでもありますが^^
転スラのサブエピソードはちょっと身重?
▲ フォビオ、ティア、フットマンもキャラ紹介に掲載されていない一人
また、転スラの公式サイトには42人ものキャラクターが載っていますが、2クールとはいえ、まだ42人全員の「正式な」登場を終えていません。そこでアルビスやスフィアなどの、掲載外のキャラ以外の新規キャラを登場させ、動かすには、運営が考えている最終話までたどり着くためにはちょっと“身重”だったのかもしれません。
キャラを動かすには、声優さんをあてないといけないし、新しい作画も必要になりますからね。放映時には、予算が決まってもいるでしょうから。
獣人たちが出ないのは残念ではあるんですけどね。ただ、9巻などのサブエピソードを、「OVAでするんじゃないか」そういう意見も見ました。ああ、なるほど、OVAは絵も綺麗だしそれはそれで楽しみだなぁと思いつつ、でも2期をやる際、とくに別の制作会社がやる際には、はしょった分ただ続きをするだけでなく伏線回収の見直しが少し必要になりそうです。
名作はサブエピソードも面白い
そうやって見ていくと、コミック版の面白さも垣間見えてきて、2018年の年間売り上げランキングでジャンプコミックと並んだ転スラの人気っぷりもわかってきます。
コミック版は、サブエピソードも面白いんですよね。本筋がちょっとどうでもよくなるくらい、いちいち面白くて、何度も読み返してしまいます。そこには川上泰樹さんの家のレンガや道々の石畳、魔物たちの毛までしっかり描き込む、写実寄りの徹底した描写具合の影響も強いです。アシスタントさんが多かったり、優秀なんでしょうか?
サブエピソードないしサブイベントが面白い作品は面白い。というのはどこかで聞いた言葉ですが、つまり、それだけ設定がきちんと練り込んであるということでもあります。
転スラコミック版のとんでもない「買ってよかった感」
本筋も確かに大事ですが、ファンタジー作品の本筋なんて究極的には「レベルを上げて、仲間を増やして、強者(仇敵・魔王など)を倒す」です。重要なのは肉付け――伏線を回収したり、まさかの出来事を起こさせる過程の面白さや設定の作りこみです。
作りこまれた設定とは、おおよそ、「キャラクターの作りこみ」からです。作りこまれれば、量産系キャラとそれだけ離れるので、魅力的なキャラになりますし、何をさせるにせよ動かしやすくもなり、その行動に説得力(意思)も出てきます。(やりすぎると、難解と言われちゃうんですけどね)簡単なところでは履歴書(カード)を作るとかはよく言われていますね。
強者を倒すためには、レベルを上げるだけでなく強い仲間が必要になりますが、そうなると弱い仲間はやがて去ることになります。ですが弱い仲間だって魅力はあります。それは性格の良さかもしれませんし、強者の仲間たちにはできないサポート能力かもしれませんし、ずっと主人公を影で支えてきたヒロイン的な魅力かもしれません。
▲ 料理の場面にだけ登場する手塚治虫感のあるゴブリン
いずれにしてもそうした弱い彼らをクローズアップするためには、「強者ではないけど彼(彼女)にしかできないことがある」という練り込んである設定が必要です。さらにはそんな彼らを活躍させるための舞台も必要になります。その舞台は、立場的な違いもあり、主人公のいる場所から離れている場所であることも多いです。だからこそ端役の彼らを活躍させるには、本筋からズレてしまう結果――サブエピソード化することも多々あります。
サブキャラがそれぞれ再登場しているエピソードで固まった9巻を改めて読んでいて思うのは、各サブキャラクターを、放置したままにしない(弱いままにしない)という転スラの特徴です。
▲ 10日かけて15万のオークの名づけしたリムル
そもそもリムルは、15万人以上の魔物に名づけをするという超めんどくさいことを成し遂げていた主人公です。さらにはリムルがパワーアップすれば、名づけをした住人全員もパワーアップするという、結構とんでもない横のつながりがリムルにはあります。だから弱者はいつまでも弱者のままではありません。主人公が成長すれば、絶対に成長するのだから。
能力が一新され、活躍の場が増え、登場機会が増えるにしても、キャラの把握は結構、というかかなり大変なはずですが、コミック版の精緻な作画っぷり、各キャラクターの確立っぷりは、まったくそれを苦にしているようには見えません。これだけの数の確立されたキャラクターがいれば、どんな人でも好きなキャラや気になるキャラが一人くらい出てきそうなものです。読者に作品を好きになってもらえる努力を惜しまないという意味ではこれほど努力をしている漫画もないです。それこそ、ジャンプないし週刊誌級。
背景も、模様も、小物類の描きこみも驚くほど細かい。転スラの魅力はほかにもたくさんあるとは思いますが、コミック版に限っては、どのキャラクターも一人のキャラとして確立してしまう川上さんの画の綺麗さがやっぱりかなり後押ししているのだろうなぁと思います。漫画は画集とは違いますが、ちょっとした画集を買っている感も否めませんから。(共著に小説版で挿絵を担当しているみっつばーさんの名前もありますが、どんなやり取りをしているんでしょうね)
PS:この人の昔の漫画をちょっと探してみたら、やっぱり絵が綺麗でした。(天鏡のアルデラミン)料理、食器、地図に。個人的好みも存分にあるし、あんまりヨイショするとあれなので、この辺りで〆ておきます。