14話はかなり見ごたえのある濃厚な回でしたね。
まだ2クール目に入ったばかりですが、これまでのゆったりではありながら丁寧に描いていくなろう系転生ものらしい転スラアニメの流れから察するに、全て見終えたあとでも力作回や神回と呼べるような回になっていたと思います。
▲ 普段からさっぱりとしているリムルが怒りをあらわにしていた貴重な場面でもある。webでは魔力弾、コミックではオーガたちが復讐でリンチ、殴るのはおそらくアニメオリジナル。リムルの怒りの具合は、原作の文章の方がさすがに分かりやすく表現されてる(⇒web)
この魔術回路を使うと、”炎弾”の威力ももっと上げる事が出来そうだ。
楽しくなってきた。
そもそもこのピエロ、結構しぶとそうだし、いい的になってくれるだろう。
そして、飽きたらお前も喰ってやるよ。
いわゆる激闘回ではあるんですけど、少し客観的に見てみると、スライムと豚(オーク)というおよそメインキャストに挙がらないモブ魔物の組み合わせ。別に人間ないし人型同士でなくともしっかり熱くなるなぁとは改めて思うところ。
「腹が減ったのか?少し待っていなさい」
さて、そんな14話でしたが、一つの疑問がむくむくと沸く回でもありました。
それはタイトルにもつけていますが、なぜ子供に自分の腕を差し出すほど一族を想う王だったゲルドがゲルミュッドをあっさりやってしまったか、という点。
「ゲルミュッド。俺のことは父と思うがいい」
ゲルミュッドは確かにこれ以上もない小物な悪役ですけど、一応「俺のことは父と思え」とゲルドに言っていて、ゲルドにしてもゲルミュッドに感謝の念は結構あるはずですからね。
何か思うことがあるなら
「どういうことだ!このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!」
流れとしては、ゲルミュッドが戦地に飛んできて、ガビルにデスマーチ・ダンスを食らわせ、リムルに殴られ、そして首ちょんぱされるまで。
この間、ゲルミュッドとゲルドには主に2回の会話があって、もしゲルドになにか思うところがあれば、この間に思惑の変化があったということになりますね。
食い散らかしたことによる意識の混濁
「おいオークロード!俺を助けろ!」
「腹が減った」
……とは書き出してみるものの、実際には「既にゲルドの頭の中は混濁していて、考えるための理性が足りない」とは大賢者による解説です。
解。数多の種族の力を得た結果、オークロードの意識はその力に寝食され混濁しています。(コミック版5巻より)
書籍版のプロットとも言われているweb版のほうでは、大賢者による解説はありませんが、リムルによる観察心境描写で、その変化は捉えられています。
黄色く濁っていた目に光が宿り、知性の輝きが見て取れる。
本能のまま動いていたであろうオークロードが、自らの自我を獲得した瞬間である。(web39話より)
力に浸食されている、というのは「スキル」というゲーム的な能力の概念的な解説が異世界ファンタジーものでは基本的にされない辺り(何の作品か忘れたけど「神からの贈り物」としているものはちょっと面白いと思う)、いろいろと考えが及びますが、
これまでゲルドないしオークたちは、描写はないですが、確かにリザードマンへの侵攻の道中で同族はもちろんリザードマンやホブゴブリンたちを食ってきています。他の種族や動物などもきっと食べているでしょう。
基本的にゲルドの持つ『飢餓者(ウエルモノ)』は、吸収能力としてはリムルの持つ『捕食者』の下位スキルの位置づけです。だから食い合いでは負けてしまったわけですが、この下位スキルっぷりの一つが、スキルの持ち主の意識を混濁させてしまうことでもあります。リムルの意識は食らっても混濁しませんからね。
まさかの首を刎ねた
「……」
「何をボケっとしている!豚が!」
とはいえ、ゲルミュッドは一応堅実な思惑があったわけですがあんなにも小物の悪党であり、一方のゲルドは仮にも子供に腕を差し出すほどの一族を想う立派な王です。
散々「クズがっ」と言い、誰の目から見ても死亡フラグびんびんな悪党であるゲルミュッドを、一族を助けるためにゲルミュッドに従っているにすぎない王があそこでゲルミュッドをやるのは、一応自然な流れのようにも見えます。直後にすまないとか言うのは通例です。
「クソがっ!俺を助けろオークロード!いやゲルドよ!」
「……!」
気になるのはゲルミュッドから「ゲルド」と名前を呼ばれたときです。ゲルドはそのとき何かを思い出す素ぶりを見せ、出てきたのはゲルミュッドから名づけられたときの一幕でした。
ゲルミュッドへの感謝の念が先行していたのなら、ゲルミュッドを通り過ぎ、リムルたちに向かって肉切包丁を薙いでいたでしょう。(あまり好戦的には見えませんけどね)ですがそうはせずに、ゲルドはゲルミュッドの首を刎ねました。
「ハハハハハ!コイツの強さを思い知るがいい!やれゲルド!この俺に歯向かったことを後悔させて…」
もう一つ気になるのは、ゲルドがなにか考え事をしている素振り(描写・カメラワーク)をこれまで見せていたことです。ただ愚鈍というには妙な思わせぶり。
それに今回の14話は、リムルの直殴りなどをはじめ、アニメオリジナルな描写も強いようなので、ただ意識の混濁と飢えの本能という風にはちょっと捉えづらい部分があります。
王の悲しい決断
「一昨日生まれた子が今朝死んだ。昨日生まれた子は虫の息だ。この身はいかに切り刻もうと再生するのに。これが絶望でなくてなんだというのだ」
ゲルドはゲルミュッドから名前を呼ばれたときのあの名付けの追想で、もうあの大飢饉の経験を一族の誰にもさせたくないと改めて強く思った、と筆者は思います。
「あの方は教えてくれた。オークロードとなった俺が喰えば飢餓者の支配下にある者は死なない」
その王らしい強い信念と王にしては強すぎる犠牲心、そして経験した飢えによる惨事が、「上位の魔物である魔王になれば、今よりもより飢えの経験を一族の誰にもさせなくてよくなるのではないか。子供も立派に育つかもしれない」という考えに至らせた。
そして皆を守るための“餓えた”犠牲心は、(理性のなくなる空腹心や、スキル的な意識の混濁とももちろん多少ないまぜになりながら)「魔王になるには、力のある魔物を食らう必要がある。……目の前の魔人を食らえば、魔王になれるだろうか」という突発的な行動を起こさせた。
そう見てみると、「魔王に進化とはどういうことか?」とゲルミュッドにたずね、その後考え事をしているようだったゲルドの心は、「魔王になればみんなをより飢えから救えるのではないか?」と考えているようにも見えてきます。一応見た目の辻褄は合います。(単にゲルミュッドの魔王化の指示に盲目的に従ったということにもできるのですが、それならリムルに吸収される瞬間、ゲルドが死ぬ瞬間をあんなに感動的にはしません)
食らい合いの最中、オークディザスターとなり、ゲルミュッドの知性を手に入れて理性を取り戻した王は「この世の飢えを引き受ける」と吐露します。ある意味で、王らしい大きな考えですが、あまりに巨大化した犠牲心は、王としては相応しいものではありません。(その辺りが「魔王」らしいのかもしれません)
「俺は負けるわけにはいかない。俺が死んだら同胞が罪を背負う。俺は罪深くともよい。皆が飢えるこのとないように俺がこの世の飢えを引き受けるのだ」
側近のオーク(後のゲルド)は腕を差し出す王の行いを日頃から見ていたようだし、側近だから王の性格もよく知っていたでしょう。そのうえで彼は都度、「王が死ねば、国はあまりにも簡単に滅ぶ」のだと頭を垂れて諫言していたことがうかがえます。
ですが諫言は飢饉の現実により聞きとげられず、善王は、その飢餓者らしい“餓えた”強い責任感を捨てることもありませんでした。だからこそ側近である彼は、周囲が王の敗北と消失を嘆き悲しむなかでこうこぼしました。
「王よ…やっと解放されたのですね…」
無謀にも見える賭けに出て、ジュラの森へ一人赴く王を止められなかった自分の罪もまた解放されたという小さな安堵とともに。